りで呟いで奇妙な笑ひを浮べてゐた。
「その外套、お前には餘つ程大きいね。エスキモー見たいだぞ。」
ひとりごとなど呟いで笑つてゐる彌生を、隱岐は難じてやつた。
「左うよ。だから、何うせ他所行きになんかなりつこないさ。――その代り、凡そ窮屈ぢやなくつてよ、中で泳いでゐる見たいよ。」
「さすがに、それぢや、暑過ぎるだらう。」
「ほんの少し……」
と彌生は、薄ら笑ひのまゝ、何やら思ひ切つたやうに輕く默頭いて、立ちどまつた。そして、ぐるりとあたりを見まはした。
球蹴りをしてゐる若者達の姿が、遙かの後ろに、鳥のやうに小さく見えたゞけだつた。折々遊びに來て、彌生と文學の話などを取り交す青年もゐた。――見つかると困るから、遠くを廻らう――といふので、はじめから二人は彼等を避けて、街をまはつてずつと西寄りの濱邊に降りたのである。
彌生は稍しばらく笑ひを堪へるかのやうに、襟の中に顎を埋めながら、凝つと隱岐の顏を見据えてゐたが、やがて、
「でも、大したことはないわよ。――だつて、斯うなんだもの――」
と云ふがいなや、非常な速やかさで、ぱつと、一瞬間、それを脱ぐ眞似をした。隱岐は、思はず、アツ! と
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