彼等は如何なる類ひの事柄であらうとも自分の命ずるところであるならば決して逆らはぬ自分の最も忠実なる下僕である。貴兄の眼前で働かせて見せようか――などと吹聴したが、これも私としては神の掟に逆ふ事柄である故辞退した。が然し私の親友である天文学者のギオラヒラスは、彼がこの二頭の従者に命じて炊事の用をなさしめつゝあるさまを見たと私に伝へた。)
(翌年の冬彼は悪魔に絞殺された。)
 次の一文はスポンハイムの寺院長ヨハネス・トリテミアスが一五〇七年度中の書簡で、友なる某検査官に送つた通信文中の一節である。
(ジオルジアス・サベリカスなる人物は戸籍なき漂泊者にて、自ら魔術の王と称して、神聖なる教理に戻る奇怪不埒なる説を流布し回る惨めな悪漢であります。この者、去月ガイレンヒーゼン市に現れ、同市の公会堂に於て、「キリストの奇蹟驚くに足らず」及び「哲人プラトン並びにアリストートルの著書を尽く焼き棄てるも、余の脳裏より容易に之を供するを得べし」なる二題目のもとに、十時間に亘る講演を行ひたる由を同市の僧侶より聞きましたので、早速会見を申し込みましたるところ、小生の到着を待たずしていちはやく遁走しました。その節
前へ 次へ
全20ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング