スパイス「ファウスタス伝」
 クリスト・マロウエイ「ファウスタスの悲惨なる伝記」
 レツシング「フアウスト」
 ゲーテ「ファウスト」
 ツルゲネイフ「フアウスト」
 等と僕は、薄曇りのした空を見あげながら指を折るのであるが、未だ/\沢山の脱落があることだらうな、ファウスタスに酷似した人物が登場する作品に関しては――。
 悪魔との契約書は、紀元十三世紀以後に於ては、必ず血をもつて認めらるべく規定されてゐる由、君も僕も悪魔に従うて、先づ第一に貧困と戦ひつゝあるが、僕は契約時の文面が成りたゝぬのである、血は斯の如く惜まぬ者であるが――。
 僕はこの頃、この部屋か或ひは「多くの人々は多様なる彼方に赴くべし、而して知識は増さるべし」とか「自然界に向つて吾等は吾等の意見を押売する」とかといふ厭に勿体振つた意味からANTICIPATIO・MENTISといふ屋号の、仲々もつてエロティックな酒場に自分自身を見出さぬ日は、主にG・L・マイアム氏のレントゲン・スタヂオに出入してゐる。彼は、一言にして云ふならば、ベーコンの所謂「其自体に於ては弱小にして無用なる才能も、正しき手段と秩序とに適用せらるゝ時は、重要
前へ 次へ
全20ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング