是非とも訊きたいのであるが、不明であつたら君自身の創作で、その言葉を僕に与へて呉れ。
 ――僕は、憂鬱で堪らない。

     二

 K兄、また書くよ。
「シプリア人と処女の話」の次に吾等の悪魔の現れる作品は「ガンデルシヤイム寺院の会計係テオヒラスの誘惑」であらうか? そしてこの作者は十世紀代の女流詩人ホロース・ウヰーサか? この作品は朗読に価する韻文詩の由であるが、誰かの和訳文はないだらうか。僕は、テオヒラスが職を失うてシシリアの街を慟哭しながらさ迷ふところを、今日のやうに貧しく寄辺ない心の日に朗読したならば定めし意に添ふであらうと思ふのだよ。
 ホロース・ウヰーサから、一六三七年のカルデロンの「或る魔術師の話」に至るまでの間には、一五〇七年のヨハネス・トリテミアスの「ファウスタス書翰集」一五四八年ヨハンガストの「備忘録」マリンアスの「日記」、一五八八年ウヰールの「ファウスタスとの交遊」一五九九年ウイドマンの「ファウスタスの手記」等で、実在の彼の伝記、逸話が集められてゐるが、彼を題材に選んだ文芸作品は一つもないのかしら?
 僕は読んだ――。
 パイロン「マンフレツド」
 ヨハネス・
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