地球儀
牧野信一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)呟《つぶや》いた
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)これ[#「これ」に傍点]
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祖父の十七年の法要があるから帰れ――という母からの手紙で、私は二タ月ぶりぐらいで小田原の家に帰った。
「このごろはどうなの?」
私は父のことを尋ねた。
「だんだん悪くなるばかり……」
母は押入を片付けながら言った。続けて、そんな気分を振り棄てるように、
「こっちの家はほんとに狭くてこんな時にはまったく困ってしまう。第一どこに何がしまってあるんだか少しも分らない」などと呟《つぶや》いていた。
「僕の事をおこっていますか?」
「カンカン!」
母は面倒くさそうに言った。
「ふふん!」
「これからもうお金なんて一文もやるんじゃないッて――私まで大変おこられた」
「チェッ!」と私はセセラ笑った。きっとそうくるだろうとは思っていたものの、明らかに言われてみるとドキッとした。セセラ笑ってみたところで、私自身も母も、私自身の無能とカラ元気とをかえって醜《みにく》く感ずるばかりだ。
「もうお父さんの事は
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