れと僕は伊達に頼まれてゐるんだが、君には何も彼も云つてしまはなければ僕の気が済まないから……」
「伊達ツて、変なニセ豪傑だな!」
「君は、未だほんとうの子供なんだね。」
 と塚越は、セヽラ嗤つた。「吾々が君、フエミニストに傾いて行くことは当然の本能ぢやないか。僕は学校の豪傑連なんて毛程も気にしてはゐない、――僕は何うしても恋人が欲しいのだ。恋人さへ見つかれば、死んでも好いと思つてゐる。」
 その晩塚越は、遅くまで私の部屋に居て、私の決して知らぬ――甘く、艶めかしい、花やかな世界の話を告げた。
 学校では、塚越は何時も運動場の片隅に蹲つて、物憂気な姿であつた。そして私が通りかゝると、何となく臆病さうな眼をしてさしまねいたが、私は余り近寄らなかつた。

     二

 学期の終りの頃であつた。
 塚越享、右の者不都合の廉に依り退学を命ず――斯んな掲示が出た。
 噂に依ると、塚越は運動場に艶書を落したのを生徒監に拾はれたのが、この事の起りであるさうだつた。
 いよ/\、では塚越は恋人が出来たのだな――と私は思ひ、秘かに彼のために祝福した。何故なら彼は、常々、恋人さへ出来れば何んな犠牲も厭は
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