籠絡して来よう――と鶴井が勇敢な役廻りを買つて出た。
私と岡は、そして鶴井と倉は、四角な囲炉裡に夫々相対して向ひ合つてゐた。私は焔の合間から時々岡の方を見ると、彼の視線は何時も凝然と私の上に注がれてゐた。そして彼は、人知れず煙りのうちに指先きをもつて何かの輪廓を描いてゐるといふ風であつた。
その晩私は、酔ひ潰れて鶴井達の小屋に泊つてしまつた。――朝になつてアトリヱに行つて見ると、岡は瓶の土を練つてゐた。
「今日は無理だらう?」
と彼が云ふので私は、
「腰掛けてゐる位ゐ……」
さう云ひながら、モデル椅子に凭ると、岡は壜型の毛布を取除いて、仕事にとりかゝつた。
その日の仕事では、壜型の肩が稍扁平な壁になつて、頭部の丸味が伺はれる程度になつた。
仕事が終つたところに、私の妻が、私が前の晩帰らなかつたのを案じて来た。岡が私の代りに、私達が仕事の着手を悦んで祝盃を挙げ過ぎた事に就いて詳さに説明した。
「これが俺だよ。」
肥つた壜型を指して私が左う云ふと、
「未だ、これでは面影が解らないけれど――」
と、それが余りに無造作な恰好であることを何とはなしにわらひながら、
「それでも、此
前へ
次へ
全32ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング