だよ。」
 と、てれて、眼をぎよろりとさせた。
「…………」
「勘弁して呉れよ、君――とんだ失策をしてしまつたんだが。」
 前置ばかりを気の毒さうに岡が繰り返すので私は、不安の雲に巻き込まれたが、漸くその理由を聞くところに依ると、三日間の連続の仕事で、漸く壜型の「私」に微かな眼鼻のあり所が感ぜられるところまですゝんだところ、
「もう一枚着物を著せて置けば好かつたのを、ついうつかり前の日のまゝにして置いたら、すつかり凍つてしまつてね……」
 と云ふのであつた。
「やり直しは、僕は平気だが。」
 私は漸く言葉を発し得た。
 つまり、壜型の粘土の私の像に、襤褸布の巻き方が足りなかつたゝめに氷結して、ポロポロになつてしまつたのである。
「失敬しちやつたな、どうも――」
「それは――ぼ、僕は関はんよ、どうせ、たゞ椅子に腰かけてゐるだけのことなんだもの、君こそ、馬鹿を見たゞらうが……」
「失敬、失敬――」
 と繰り返して岡は私の手を握つた。
 それから暫くたつて私は、ひとりでそつとアトリヱに来て見ると、なるほど壜型の「私」はすつかり水分を失つて石となり、試みにコツコツと金篦の柄で叩いて見ると、叩く
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