大石力彌や、その他五六名の、各自に飛道具を携へたいくさ人達が駈けつけて来た。
「何うしたんだい、守ちやん、早く仕度をして来ないのかい。」
 彼等は、花火の用意をして、星月夜の今宵、壮烈な夜襲を試みる計画らしかつた。――仲間のものにとり巻かれた守吉が、崖下に立つてゐる私をゆびさして、説明をはじめたらしいので、私は大きにあわてゝ、
「違ふぞ/\、待つて呉れ、守吉の感違ひなんだ。」
 手を振りながら近づいて行くと、彼等は一斉に軽い戦闘気分を漂はせて、私の左右に身構へた。――私は、決して、勝負の金を払はぬといふのではない、守吉の饒舌が煩に堪へぬので、憤つてしまつたのだ……。
「さあ、一緒に伴いて来い。」
 と云つた。
 私は、花屋の主人を使ひに頼んで、うちから冬のオーバーコートを持ち出して、質屋へ走つて貰つた。自分が、その場をしばらくの間でも立つたら、債権者が更に不安の眼を輝かせさうだつたから、その監視の許に人質となつたのである。
 私が主人から渡された九万円の中から守吉に三万円を渡すと、彼は急にてれ臭さうな嗤ひを浮べて、
「小父さん、憤つてる見たいだな――とつても好いかえ?」
 など逡巡して
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