んで、或ひは毒々しい皮肉の口吻を突き出して、
「これは、何うも恰でばく然たるものだ。」
 と、厳かに不平の唸りを挙げた。その時私は、その守吉が唸る韻を踏んでゐる見たいな言葉が、近頃私が酔つた時の口癖であるのに私は気づいた。この口癖の原因を私は探つて見ると、たしかにそれは田舎の財政上の騒動の頃に端を発してゐると見られた。私はその頃、そんな呟きより他に言葉がなくて、やけ酒をあほりながら憤懣を充してゐたと見えるのだ。それが、また、すつかり私の口癖になつてしまつて、今でも私は稍ともすればその言葉を呟くのが習慣だつた。いつの間にか守吉は、そんな私の口癖を聞き覚えたと見える。声色ばかりでなしに、私がそれを唸る場合の眼の据ゑ方から口の歪めなりや、首の振り具合までも守吉は巧みに模倣してゐたが、今は有頂点のあまり自身が、当のモデルの前で、モデルのしぐさを真似てゐるといふことさへ気づかぬ風で、唸つたかと思ふと、ぽん/\と額を叩いてやにさがつたり、果ては、物凄いひよつとこ口をにゆつとばかりに私の鼻先へ突き出すが如き示威の有様だつた。
「おさむらひ――まるで漠然たる……」
「…………」
「あツ、痛てえツ、打つ
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