いやうなつくり声で、
「気の毒だけれど、これは駄目だ――まるで、ばく然たるものぢやないか……」
 と、にやにやしながら、すいと駒を横に寄せると私の先手は、綺麗にはさまれてゐるのである。私は、ぎくりとして階段型の陣容を改めて鳥瞰して見ると、その順で行けば、次々と一つづつ私の兵士は滅亡して行くより他はない悲惨な状態だつた。
「ちよい、ちよい――と!」
 守吉は、はやし立てながら、まつたく、ちよいちよいと難なく私の軍兵は次々に馘られる始末だつた。
「ばんざあい! 二万八千円だツ!」
「…………」
 私の首は、ごろりと畳に転げてしまつた。妙なもので、斯う執拗に攻めたてられると、その莫大な金額がそのまゝ夢ともつかずに犇々と私を怯やかせた。さうかと思ふと私は、債権者としての田舎に於ける自分の名前を今更のやうに思ひ出したり、私の山や田畑をめぐつて幾人もの強慾者連が、血で血を洗ふ暗闘を巻き起した光景などが、虚空のスクリインにまざまざと展開されたりした。
「さあ、この始末は何うして呉れますかね、もしもし、おさむらひ、たしかな返事を伺はせて貰ひてえものですな。」
 守吉の科白は、尻あがりに物凄気な殺気を含
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