るかのやうな、白々しさに澄み渡つてゐるばかりで、何んな類の思案も浮ばぬのであつた。若し、周囲の者の打ち沈んだ眼さへなかつたら、おそらく私は、そんなに厳かに腕を組んだり、凝ツと眼を据ゑたりはしなかつたであらう! これは一体何うしたといふことであらう! ――たゞ、私は、そんなことを思ひ、また、「最も麗はしい言葉」や、「未だかたちの出来てゐない創作上の夢が、不図斯んな場合に愉快な緒口を得て花やかに展けるかも知れないよ。」――などと思つてゐたので、私は一層私自身に軽蔑と慨嘆とを覚えずには居られなかつたのである。
「さあ、一刻も早く……?」
「ともかく吾々は斯うしてはゐられないのだから……?」
「号令だ、号令だ……?」
それらの狂ほし気な唸りが火になつて私に迫つた。――私は、腕を組んだまゝ席を立ち、徐ろにテントのまはりを一周した後に、演説者のやうな熱いジエスチユアをもつて言葉を放つた。
「武装を整へて出発だ。――万一、獲物がなかつたら、掠奪より他に道はないよ。被掠奪者に対しては罪を感ずるが、凡ゆる努力をした後の、最後の饑《うゑ》のための掠奪に対しては天に恥ぢる要はない筈だ。」
私達は何時でも
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