自由に借りることが出来る村の居酒屋のドリアンといふ馬に、テント及び炊事道具、調味料、鉄砲、手風琴、酒、十キロの米――等を積み、私が、トランプを切つて方角を定め、西北方、ヤグラ岳と称ばるゝ木立の深い山を目差して発足した。

 村境ひの橋のたもとで――。私達は居酒屋の娘に屡《しば》しの別れを告げに行つた学生の三原を待つた。間もなく三原と娘が田圃道を此方へ向つて歩いて来るのが解つた。三原は娘の肩に腕を載せてゐる。そして、時々歩みを止めて稍暫く二人は立止つたりする。私は望遠鏡を取出して見たので、私だけには、はつきり解つたのであるが、――私は嫉妬を覚えて、
「何を愚図々々してゐやがるんだい、馬鹿野郎!」
 と怒鳴つたりした。皆が、それに伴れてワイワイとはしやぎたてたりした。
 娘と三原は私達のところへ駆けて来ると、娘が、私の妻の手をとつて、
「あたしも一処に伴れてツて頂戴な?」
 と申し出た。すると他の三人の青年に、私も加はつて、一勢に横を向いて――「チエツ!」と云つた。一同は常々、娘の居酒屋の常連で、娘に同程度の関心を持つ者であつたが、(私も――)娘は、私達の中で最も若く、そして生真面目な三原
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