ゐたが、妻の注視を享けると、食物が胸に支《つか》へてしまつて、嚥込《のみこ》むことが出来なくなり、ギヨツとした。――すると、そんな切端詰つた場合であつたにも係はらず、一同は、私の眼つきが、昼間の梟のそれのやうに間が抜けてゐて、見るからに気の毒気である! と評して、賑やかに笑つた。
斯んなやうな類ひの出来事で忽ち仰天の色を顔に現し、真に眼を白黒させるが如き痴態を示すのが、最も速やかな分別を示さなければならぬ筈の立場にある私だつたから、このキヤンプ生活は恰も隊長のない探険隊に等しかつた。
「それあ、町へ行くのはドリアンを飛ばせて行くんだから僕は返つて面白いけれど、何しろ先月からは何も彼もキヤツシでなければ寄《よこ》さないといふ規定が出来たのでね。然し僕等は何もそれがために特別な憂慮を持つことは要らないのさ。僕等だけに対して、そんな規定が出来たといふわけではなくつて……」
「そんな憂慮なんてことは知らないけれど、ともかく、お午までにあたし達は……?」
「身にするものとか、物品とかを売るといふ術はあるが……?」
「術はあつたつて、価値のあるものなんて何もないからね……?」
「何うしよう、タキ
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