。」
「あなたは中学の時分ラツパ卒だつたのね、ラツパを持つて写した写真がありましたね。だけどまさかあの[#「あの」に傍点]ラツパぢやないんでせうね。ホツホツホ……」
「うむ。――コルネツトとかホーンとか云ふ楽隊用の奴さ。あれだつて唱歌ならすぐにでも出来るんだ。」
「そんなら好いでせうが、私はまた兵隊のラツパかと思つて驚いたわ、いくら郊外だつてあれ[#「あれ」に傍点]を吹かれちやア!」
「僕は寧ろあれ[#「あれ」に傍点]を吹いて見たいんだ、あれならほんとに得意なんだ。」さう云つて滝野は一寸無気になつて思はず胸を拡げた。「お前にも一辺俺の得意の業を見せてやり度い。」
「お止めなさいよ、馬鹿/\しい。」
「皇族のお出でになる時、君が代を吹奏するのは俺一人だつた。校長が俺に雑記帳の褒美を呉れた。他人《ひと》から賞められた上賞品を貰つたといふ事は、あれ以外には無いことだ。――俺は体操の教師とは最も仲が悪かつた、普段体操の場合|丈《セイ》の順は一番のビリだつた、処が晴れの日には俺は先頭に立つて威風堂々とラツパを吹いた、ラツパ卒は皆な大きな奴ばかしで俺が入ると具合が悪かつたが、ラツパの音は俺のが一番
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