らないとか何とか云つては、異様な憤慨を洩らすのが、これまた文学青年の……」
「君は一口毎に文学青年、文学青年と云つては、その言葉の中に怪し気な軽蔑の意を含ませるのが好きだが、さういふ都会人はたしかに今でもゐるんだね。その上僕は、君のその笑ひが気に喰はない、何がそんなに可笑しいんだ、可笑しいことなんてそんなにある筈はない、失敬な!」と純吉は答へた。
「アツハツハ……そいつア参つたね。」
川瀬はさう云つて笑つたが、別段参つた様子もなく、アツハツハと笑つて、後ろにそつて、折目の正しい白いズボンの片方の脚でポンと空を蹴つた。
「馬鹿だな、参るも何もありアしないぢやないか、さう浮々と参つたり参らせられたりして堪るものか。」と純吉は云つて、自分に自分が擽られた気がして思はず退儀な苦笑を洩した。」
それだけ周子は読んで、退屈になつて止めようかと思つたが、傍で何も知らずに口を空けて眠つてゐる滝野の姿を見ると、いわれのない反感を覚えて、二三枚飛ばして読む気になつた。
「――「ところがね、川瀬!」と純吉は一つ大袈裟な息をいれて「僕の云ふことを一寸真面目になつて聞いて呉れ。」と云つた。
「相変らず拙い芝
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