あきれる! 蝶々もないもんだ。椋鳥か蟷螂《カマキリ》だらう。)
「聞えれば結構だ、どつちが悪魔であるか傍聴者諸君に訊いて貰はう。」
周子は堪え兼ねて、矢庭に夫に飛び付くと、そのしまりのない口の傍《はた》を、思ひきり強く抓りあげた。すると滝野は、芝居がゝつた音声を一段と高く仰山に絞りあげて、
「キヤツ! あゝ痛い/\、救けて呉れ。」などゝ近隣に聞えよがしに叫んだ。
「あゝ、焦れツたい/\/\。」
周子は、われとわが髪の毛を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]ツて、畳の上に打ち伏した。
滝野は、周子の姿を白々しく見降して、意地の悪い微笑を浮べた。そして彼は、食卓の上の徳利を取りあげて、勢ひよくいきなりラツパ飲みにした。
「げツぷ……うむ、斯う馬鹿にされて黙つて引つ込むわけには行かない、歌も許されず、踊りもいけないとなれば、吾輩だつて生きてゐる以上は、生きてゐるといふ何らかの証拠を見せなければ、承知が出来ない、……何を演らうか、何を喋舌らうか、どうすればいゝんだらう。」
彼はそんなことを云ひながら暫らく凝ツと考へた後に、仰山に膝を叩いて、
「よしツ!」と叫んだ。――「と云つ
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