、拒絶されたので、はたと行き詰つた。
「それぢや俺は、一体何をやつたらいゝんだ。」
 彼は、口を突らせて不平さうに呟いた。
「知りませんよツ! あゝ、眠い/\。」
「歌はあれより他に知らないんだ。踊りもそれより他に知らないんだ。それがみつともないとされては、一体俺は如何すればいゝんだ。」
「煩い/\、酔つぱらひ。だから立派なことをお習ひなさい。」
「折角この俺が、面白い歌をうたひ、愉快な踊りに耽らうとするのを、碌でもない批評をして、恍惚の夢を醒さうとするのか?」
「止して下さいよ――声が高い!」
「喋舌ることにまで干渉するのか! 牢獄に投ぜられたよりも酷い束縛だツ。叱ツ!(ふざけちやアゐねエんだぞ。)野生の小鳥を生捕りにして籠に飼ふ人々が、何時鳥の嘴を針で縫つたか? 貴様は、蜜に酔ふて花に戯れてゐる蝶々を、毒壺の中へ投げ込む昆虫採集者の助手に相違ないぞ!」
「いゝ加減におふざけなさいツ。」周子は拳を震はせて叫んだ。「文句があるんなら昼間にして下さい、夜中に芝居の真似なんてされて堪るものですか、夜中なんですよ、お隣りに聞えると云つたら! お隣りに――。あゝツあツ!」(チエツ、小鳥が聞いて
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