も……アツ! これは何うも失礼、うつかり飛んだことを……」
「関《かま》ひませんよ。その通りですもの――」
と僕は鷹揚に点頭いたものゝ、内心相当の不愉快が巻き起り、ついさつきまでは、それほどまでに斯んなものが欲しいといふのなら、もう少しで、現在妻が編みつゝある素晴しいアメリカン・ビユウテイのセーターが出来あがる由だから(無論僕は、セーターが出来あがるまでの一時しのぎに、斯んなものを着用してゐたのであるから――)進呈しよう! と思つてゐたが、それから引き続いて若者はいろ/\な交換条件を提出してまでも、譲り渡しを頼んだのに僕は、
「まあ、考へて見よう。」と一言云ひ残して、その場を立ち去つた。
ポーカーに負けた僕が或晩遅く居酒屋へ酒を買ひに行くと、先日のEをはぢめ、馬蹄鍛冶屋のY、村長のノラ息子、森の炭焼家、川向ひに住む執達吏、その他幾人かの屈強な男達が車座になつて何か密議に耽つてゐた。大方選挙に関する相談でもしてゐるのだらうと思つて僕は親爺が酒壜を荒縄でからげるのを片隅で待つてゐると、Eが傍らに来て叮嚀なお辞儀をした後に、また例の交渉を切り出すのであつた。僕はポーカーに負けて少々向ツ腹
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