して云ふのであつた。あなたが、この鳥の羽根の冠を風に翻しながら、そして、ガウンの裾を肩の上にはねあげて、田甫道などを歩いて行く様子は、ほんとうに勇まし気に見へ、何時も思はず振り返つて、その颯爽たる姿が指呼の彼方に没するまで惚れ/\と眺めてしまふ……。
「あの人に比べると、おそらく体格の堂々たるあなたが――と私のスヰート・ハートが、私に向つて度々云ふのです……」
と若者は凄まじい声色をつかつて云ひ続けるのであつた。――「あなたが――と彼女が云ふには――つまり、私のことですよ、あれを着て歩いたら何んなに立派なことだらう、馬に荷物を積んで市場へ行つた帰りに、馬を飛ばせて戻るあなたの頭に、あの冠が翻つたら、――あゝ、あたしは何んなに烏頂天になることだらう、何んなに嬉しい心地であたしは、あなたを村境ひの丘で迎へることが出来るであらう。」
若者の言葉の調子は益々逆上して、息苦し気にさへ僕に映つた。
「僕達二人は、何時もあなたを見るにつけ堪らない物欲し気な眼を挙げて、そんなことを云ひ暮してゐたのですよ。私の彼女は云ひました――あんな痩ツぽちのチビ男が着てさへ、あんなに立派に見へるあのガウンを若し
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