したのだから――と云ひ張つて諾《き》かぬのである。若者の眼つきは、僕が若し、否と云へば、暴力に訴へてゞも……と告げてゐるかのやうに烈しく気色ばんでゐた。
僕は、沈んだ調子になつて、斯んなものは流行でもなんでもない、他に着るものがなかつたので寄んどころなく、まあ、斯んな人里離れた所だからよからう位ひで始めたわけなので、村の人達に見られる度に内心冷汗に堪へられぬ思ひがしてゐたのだ。憧れの眼で見られてゐたなんて夢にも思はなかつたよ、そいつは何うも何とも恐縮の感だね、――などゝいふことを切なく述懐したのであるが、Eは返つて僕の言葉を信ぜぬ有様だ。
「君は、若しもデパートから、こんなのがとゞいたとしたならば、それを着て、ギンブラへでも赴く程の心地も持つたの?」
「勿論ですとも――」
「それは大変な間違ひだつたよ。斯んなものを着て東京へ行つたら、忽ち囚はれて、松沢病院へ案内されるに決つてゐる。」
そんな強い言葉を持つて僕が打ち消したのであるが、彼は余程物数奇な男と見へて、流行であらうとなからうと頓着ないのだ、斯うなれば私は是が非でも、それが欲しいのである――。
「あなたが――」
と彼は僕を指
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