が立つてゐたところだつたので、
「そんなに欲しいんなら、持つて行くが好いさ――」
 と云つて、先づ帽子を脱ぎにかゝつたのである。すると、突如! ワツといふ叫び声が挙つたかと思ふと車座が飛び散つて、猛獣のやうに彼等は僕に飛びかゝり、口々に「俺だ!」「いや俺のだ!」「馬鹿を云ふな、俺が貰つたんだ。」と怒号しながら、恰で紙屑のやうに僕をもみ倒してしまふのであつた。僕は、苦しい/\! 待つて呉れ! と悲鳴を挙げながら素早く身を交して渦巻の中から飛び出したのだが、更に彼等はワーツ! といふ鬨の声を挙げて追跡にかゝつたのだ。寒い、明るい月の晩だつたよ。僕は白い街道を一目散に駆けながら、いよ/\堪らないと思つて、次々に身に着けてゐる品々を脱いでは棄て、脱いでは投げして、終に全裸《まるはだか》のパンツ一つになり、宙を飛んで吾家に戻つたのである。

 間もなく村の若者達の大半は、この服装に変つたのである。僕のを雛形にして、これが青年団の正服に制定されるといふことになつてしまつた。
「当分の間でも関ひませんから、あなたがひとつ村の青年団長となつて、思想善導の任にあたつてくれませんか。」
 恭々しく雛形を返
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