僕達にとつてこの服装は海底作業家にとつての潜水服と同様なものになつたのである。つい此間の晩も、この焚火を囲んでさまざまな衣裳哲学論に花を咲かせたりしたが、今や僕等はこの衣裳形式に統一されて凡ゆる活動の腕をのばしてゐるのさ。この鳥の羽根のついた冠りなども僕は前にはたゞの伊達な飾りものかと思つてゐたが、斯うして使用して見ると到底口では述べきれぬくらゐに繊細な役立をするのが解つたよ。何事も、あたつて見なければ解らぬな。妙だ。
それよりも僕がはぢめて、この原始人の衣裳を身につけて、この村に乗り込んで来た当初の一エピソードを知らさう。――僕は買物に出かけるにも、居酒屋に現れるにしても、もとよりこれより他に何んなキモノも持ち合さぬのだから、平気さうな顔をしてのこのこと歩いて行くのだが、意外なことには誰一人嘲笑の眼を向ける者もゐないのだ。それどころか、僕等を都から来てゐる一団と思つてゐるらしい村人達は、これが近頃都の流行の尖端を切るいでたちなのか! シツク・スタイルとは、あれか! おゝ、都の人達は近頃あんな身装で、あんな歌をうたひ(君も知つてゐるだらう、僕は稍ともすればナンシー・リーとか、リング・
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