城ヶ島の春
牧野信一

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)木兎《みゝづく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「城ヶ島の雨」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ポツポ/\と
−−

 城ヶ島といふと、たゞちに北原白秋さんを連想する――といふより白秋さんから、わたしは城ヶ島を知り、恰度酒を飮みはじめた十何年か前のころ、わたしたちは醉ひさへすれば、城ヶ島の雨[#「城ヶ島の雨」に傍点]を合唱したものである。白秋さんが、三崎から小田原へ移つて何年か經ち、恰も、千鳥[#「千鳥」に傍点]の唄をつくられて間もないころではなかつたらうか。
 わたしは白秋さんが、かなりながく住んでをられた小田原の天神山といふ明るい盂宗竹[#「盂宗竹」はママ]と芝の小山に營まれた木兎の家を、引上げられる一二年前に何か所用があつて東京からお訪ねしたのを初めに、わづかの間であつたが、どうもそれが悉く春の季節で、慾深和尚が筍を盜みに現れる影法師を、木兎の家の窓から朧月を透して見物したことや、おやまあ、こんなところにもツク
次へ
全10ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング