シンボウの芽が出てゐるぞ、ほらまた、こゝにも――と水々しい朝あけの芝を、ゆうべの踊りをおもひ出す足どりで踏んでゐた白秋さんが、何か餘程貴重なものでも發見したやうに驚嘆の聲をもつて指さし、その度毎に空を仰いでわらはれてゐたのをいつも今ごろになつて、どこからともなく貝の音色を感ずるやうな微風に吹かれると、突拍子もなくおもひ出すのである。
そのころ白秋さんの詩の一つに、凡そ二三歳であつた御子息が汽車遊びに耽つてゐらるゝ光景をうたはれたものゝなかに――たとへば御子息は玩具の汽車をおしながら、見渡す限りの何も彼も、ツクシンボウも木兎《みゝづく》さんもお月さんも和尚さんも、そして父《パパ》さんも母《ママ》さんも……みんな、みんな、乘んの乘んの[#「乘んの乘んの」に傍点]――と汽車の客となし、汽車は大層な汽笛の音も高らかに、ポツポ/\と驀進して行く素晴しさを、うたはれたものだつたとおもふが、たしかそのなかに、マキノさんも乘んの、乘んの――といふ一句があつたのである。四角張つてゐたかのやうな何處かの青年が、やがて海の上に月が出る時刻になると、忽ちマリオネツトのやうに醉つ拂ひ、厭味《いやみ》な喉を振り
前へ
次へ
全10ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング