とう/\半島の出つ鼻までも流れ住んで最早地上の空想の種も盡き、沖を走る舟の上にでも夢を乘せるより他には灯影もまたゝかぬかといふやうなおもひに憑かれて、燈台が光り出す時刻にもなるとふら/\と渡し舟に乘つて、島へ渡る夜が度重なつてゐた。
「ところが、たうとう鳥をつかまへたといふわけさ。當分は、この鳥の介抱で、夜の眼も眠らないかも知れないんだよ。」
こんどはわたしが、船頭にはなしかけたのであつた。彼は、聞えぬ樣子であつたが、やがて、
「夏まで三崎に居るつもりかね?」
と訊ねたりした。
「多分、居ないだらう……」
「夏になると、着物をあたまにしばりつけて、男どもは舟がなくなると、こゝの間ぐらいは泳いで渡るんだよ。」
そんな事をはなしてゐるうちに、間もなく渡し舟は三崎の岸に着きさうになつたので、わたしは急に思ひだして、ふところをさぐつたのであつたが、ふところのものは煙草も手帳も双眼鏡も、その他のものもみんな紛失してゐて、鴎が眠つてゐるだけだつた。手帳と云つても、到底他人に見せられぬたぐひの歌のやうなものが誌してあるだけであるし、双眼鏡といふと少々物々しいが、新らしいけれど値段さへ忘れてゐる
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