トルをぐる/\回して見せたりすると、禿鷹や狼などでさへ、震へあがつて、おそる/\、銃器の構造を質問したりするといふ風だつた。
「この分では、たしかに成功だらう。」
 などゝ彼女が僕に話しかけると僕は、
「僕自身の眼にさへ、最も豪胆な牧童とより他には見へぬから、いさゝかの不安を持つ必要もないであらう。」
 とかと答へたり、そして、牧童が何の意味を喋舌つたのか? と、狼達が僕に眼配せをすると、僕は、
「――俺らは山の酒が飲めねえのが癪だけれど、女郎買ひなら何時でも附合ふ――だつてさ。」
 などゝ全く出鱈目な通訳を伝へた。
 それは左うと、ミツキイに救けられた女は、すつかり蒼ざめて、僕が現れると、
「御免なさい/\」
 と震へながら、何うかこのことを山長の熊鷹に内密に願ひたいと、泣き出すのであつた。いろ/\訊ねて見ると、狼達は、十五日間もの山ごもりが兼々苦痛であつて、時々斯うして茶屋の女を伴れ出して来て、がんどうの山窟にかくまつて置くとのことであつた。――しかし、君自身は苦痛ではないのか! と僕が訊ねて見ると(点頭いたならば僕は彼女を永久に救はねばならぬと決心して――。)彼女は、あの岩屋へ行
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