くと、一同の者が恰も奴隷のやうに従順に奉仕して、下へも置かぬもてなしであるから、噺に聞く盗賊の頭目にでもなつたやうな気がして幸福である。
「皆な、うちの仲間達は、がんどう行きを楽しみにしてゐるだあな。」
 折角の通路を塞がれて、悲しい――と女は啜り泣いた。
「熊鷹には断じて云はないが、まさか、これから、君ひとりで彼処まで行くことは出来まいから、ともかく俺達の小屋へ行かないか。」
 と誘ふと、女は不服さうに伴いて来た。
「扉に錠を降すことを僕は忘れなかつたのに、何うして出られたの?」
「いけないよ、そんなレデイ扱ひをしては――。おれ[#「おれ」に傍点]は――」
 とミツキイは一人称だけを日本語で太く呟くのであつた。
「窓を飛び越えて、|危険に瀕した姫君《タルニシアン》を救ひに来た|勇敢な騎士《ジヨーンズ》ぢやないか。」
 だから僕達は、驚くべきタルニシアンを馬に乗せて左右から轡をとりながら、小屋へ引きあげた。
 女を暖炉のある部屋に休ませて、僕達は左右の「アパート」に引きあげて灯火《あかり》を消したが、たしかに窓の外に蠢く人の気配が絶えないので、僕は、いつまでも眼を開けてゐたところが、や
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