。」
「熊鷹に見つけられちやならないからね。」
「がんどう窟《いは》に着いたら、いくらでも騒いで呉れ。」
がんどう窟とは、例の博打を行ふ森の奥の洞である。彼等は、彼処に引きあげて――当分あの女を囲ふらしい。
何のことか! と僕は思ふと、慌てゝ飛び出して来たことが少々馬鹿らしくなつたので、そのまゝ彼等を通してしまはうと考へてゐた時、突然行手の木影から見事な蹄の音を立てて突き進んで来る馬上の人物が現れた。
と、見ると、今迄有頂天になつてがや/\と打ち騒いでゐた連中は、一勢に足並みを止めて、
「やツ、事務所の役人だ。」
「眼鏡の若者だツ!」
などゝ叫んだかと思ふ間もなく、ワツと云つて、散り散りに繁みの中へ逃げ込んでしまつた。
草の上に投げ出された女を、ミツキイが馬の上に救ひあげてゐた。
Hurrah《ウラー》 !
ミツキイは、冬の間北国のスキー場で遊んでゐたので、雪焦けのした顔だつた。山を訪れた時に、そこにも未だ雪があるだらうと思つて陽よけ眼鏡をかけてゐた。髪は短いボイツシユ・バヴで、はじめて山に来た時には乗馬ズボンを穿いてゐた。何も知らなかつた僕等は、その時は別段、何の魂胆も
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