と云ふと、山の連中は、何ういふわけかピストルといふものを常々から魔物のやうに怖がつてゐて、事務所に来てもそれがぶらさがつてゐる壁の下にさへも近寄りたがらないのである。)――。
「ロビン・フツドを気取つてやりたいものだぞ!」
 と僕は、ぞく/\と胸を躍らせてゐた。
「何を云つてやがんだい。」
 それが女の声だつた。――「手前達の食物になんかされて堪るもんかへ。往生ぎわの悪い狼共だね……」
 木の間を洩れる月あかりにすかして見ると、一人の男が、一人の女を肩の上に高くのせてゐるのを、多勢の者がぐるりと取り囲んで、意気揚々と引きあげて来るのであつた。黒い頭かずの上に差しあげられてゐる女の上半身が焚火の焔に照らされて、綺麗に、妖気を醸して見へた。
 そして、女は、屡々、夜鳥の叫びに似た声を挙げたが、仔細に眺めると、それは、怖れや、苦悶の悲鳴ではなくつて、誰やらが、女の脚のあたりを擽る度に放つ馬鹿/\しいわらひ声のようでもあつた。だから、女は、かしましい叫びを挙げながら、
「畜生――誰だい、あたいの脚を――あゝツ、擽つたいぢやないか――馬鹿ア」
 などゝ呼ばはつた。
「もう、そろ/\声をひそめろよ
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