口なぬすつとだつたんだなあ!」
といふ酷く感嘆のうめきが響いた。
ミツキイを見破られたな! と僕は気づいたから、直ぐに其方へをどり込まうとすると、お銀が僕の腕を囚へて、
「あたしにだつて、そんなことは、とつくに解つてゐたんだよ。あのまゝぢや危いと思つたから、それで今日、こんな仕組をして、お前達を呼び出したのさ……わかつた?」
と耳うちした。
然し僕は凝つとして居られないので破目の隙間から、覗いて見ると、ミツキイは何も気づかずに、伝の傍らに、窮屈さうに胡坐を組んで煙草を喫してゐた。セピアの塗料を念入りに塗つたミツキイの横顔がはつきりと見えた。
「大丈夫だぞ、もう此処に来てからのことならば――」
となほもお銀は僕にさゝやくのであつた。「今にあたしが、奴等を吃驚させてやるから見ておいでよ、もう暫く――」
「異人さん――何んにも知らないで色男振つてゐるね。」
伝がそんなことを云ひながら、ミツキイの方へ腕を伸すと、ミツキイは、まつたく好い気で、伝と烈しい握手を交したりしてゐるのであつた。
「あゝあゝ、俺らは酔つ私つて来たぜ。」
今度は、山犬の何某が、そんなことを呟きながらにや/\と
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