僕の手をとつて、物蔭へ招き、
「あたしは斯う見へたつて、未だ山の奴等には誰一人にだつて許したことはありはしないんだよ。好く来て呉れたね。」
 と云つた。そして、斯んな野蛮な村は一日も早く逐電したい意志を持つてゐる――に就いては僕達が村を去つて都へ帰る日に、何かと口実をつくつて一緒に伴れ出して呉れないか、山を越へた先の市まで行けば落着くところがあるのだから――。
「頼まれて呉れるかね。」
「道伴れにならう……次第に依つては今夜にでも俺達は出発するかも知れないんだよ。」
「奴等はお金を大分持つてゐるらしいね。どんなに、だらしがなく奴等はあたしの云ひなりになるか、面白い芝居を見せてあげようか。」
「――うむ、見せて呉れ。」
 と僕は云つた。
 僕とお銀が、そんな相談をしてゐると、もう隣りの部屋で酒盛りをはじめてゐる一同のやかましい声が聞えた。
「今日まで俺は、息を殺してゐたが、薄々は気づいてゐたんだが、はつきり、それと、おとゝひの朝見とゞけたんだ。」
「どんなところを見とゞけたんだよ?」
「…………」
 急に声を潜めたので、その説明は開きとれなかつたが、
「して見ると、野郎の方が俺達よりも悧
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