笑つたかと思ふと、ごろりと横になつて、ミツキイの膝に頭を載せようとした。
「ゴツデム!」
 とミツキイは叫んだ。左う云ふ言葉を使ふべきである、と彼女はいつか僕に教はつた通りつくり声で唸つたのであるが、それがあまりに故意《わざ》とらしく響いた程、真実彼女は寒心に襲はれた風であつた。そして彼女は、いきなり奴の鼻柱を拳固で突いた。
「痛え/\――仲々、これでも力がありあがるぜ。嬉しいぜ……」
 男達の云ふことを聞いて見ると、彼等は、僕とミツキイに対しては、飽くまでも、ミツキイを見破つてゐないつもりにして置いて、徐ろに享楽を貪らうといふ計画なのであつた。
 素知らぬ風を装つて僕とお銀は、その部屋へ入つて行つた。
「ジヨンニーが、お前のことを聞くと、とても悦んで、お待ち兼ねだ。」
 伝が頤を撫であげながら、お銀に云つた。
「まあ嬉しい、ジヨンニーさん、好く来て呉れたわね。」
 お銀は、たくみなしな[#「しな」に傍点]をつくつてミツキイにとりすがつた。――男達が、わつといふ笑ひ声をあげた。ちやんと、もう、ミツキイのことを知つてゐて、奴等はあんなことを申し出てゐたのかと思ふと、さつきから、真面目さう
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