トルをぐる/\回して見せたりすると、禿鷹や狼などでさへ、震へあがつて、おそる/\、銃器の構造を質問したりするといふ風だつた。
「この分では、たしかに成功だらう。」
などゝ彼女が僕に話しかけると僕は、
「僕自身の眼にさへ、最も豪胆な牧童とより他には見へぬから、いさゝかの不安を持つ必要もないであらう。」
とかと答へたり、そして、牧童が何の意味を喋舌つたのか? と、狼達が僕に眼配せをすると、僕は、
「――俺らは山の酒が飲めねえのが癪だけれど、女郎買ひなら何時でも附合ふ――だつてさ。」
などゝ全く出鱈目な通訳を伝へた。
それは左うと、ミツキイに救けられた女は、すつかり蒼ざめて、僕が現れると、
「御免なさい/\」
と震へながら、何うかこのことを山長の熊鷹に内密に願ひたいと、泣き出すのであつた。いろ/\訊ねて見ると、狼達は、十五日間もの山ごもりが兼々苦痛であつて、時々斯うして茶屋の女を伴れ出して来て、がんどうの山窟にかくまつて置くとのことであつた。――しかし、君自身は苦痛ではないのか! と僕が訊ねて見ると(点頭いたならば僕は彼女を永久に救はねばならぬと決心して――。)彼女は、あの岩屋へ行くと、一同の者が恰も奴隷のやうに従順に奉仕して、下へも置かぬもてなしであるから、噺に聞く盗賊の頭目にでもなつたやうな気がして幸福である。
「皆な、うちの仲間達は、がんどう行きを楽しみにしてゐるだあな。」
折角の通路を塞がれて、悲しい――と女は啜り泣いた。
「熊鷹には断じて云はないが、まさか、これから、君ひとりで彼処まで行くことは出来まいから、ともかく俺達の小屋へ行かないか。」
と誘ふと、女は不服さうに伴いて来た。
「扉に錠を降すことを僕は忘れなかつたのに、何うして出られたの?」
「いけないよ、そんなレデイ扱ひをしては――。おれ[#「おれ」に傍点]は――」
とミツキイは一人称だけを日本語で太く呟くのであつた。
「窓を飛び越えて、|危険に瀕した姫君《タルニシアン》を救ひに来た|勇敢な騎士《ジヨーンズ》ぢやないか。」
だから僕達は、驚くべきタルニシアンを馬に乗せて左右から轡をとりながら、小屋へ引きあげた。
女を暖炉のある部屋に休ませて、僕達は左右の「アパート」に引きあげて灯火《あかり》を消したが、たしかに窓の外に蠢く人の気配が絶えないので、僕は、いつまでも眼を開けてゐたところが、やがて隣りの窓を静かに叩く音がするので、此方も静かに伸びあがつて外を眺めた。
男の肩から肩を伝つて、女が窓から忍び出るところであつた。今となれば別段邪魔をする必要もなかつたから僕は、ただ、そつと眺めてゐると、五六人の狼達が女を真ン中に抱きあげて抜足で木影の方へ消えて行かうとしてゐた。――僕が見てゐるのを知つてか、知らぬか、一同は声を立てずに一勢に此方を振り返ると、女も一処になつて、満足さうな憎々しげな顔をつくり、そろつて、ぺろりと舌を出した。
僕は僧侶の破戒の光景を連想した。――やがてはミツキイの男装を見破られて、掠奪される光景を聯想せずには居られなかつた。その時のは、共謀の茶屋の女だつたから騒ぎもそれだけだつたが、民家の女房や娘が彼等のために危害を加へられた噂は常に頻繁であつたが、何故か村人達は、それらの事件を危害とまで数へぬといふ風な、風習であることも、次第に僕に解つて来たが、「男ぞろひの山」であることばかり信じられてゐる此処に、ミツキイを擁してゐる事実は、僕とミツキイにとつては決して好奇心程度の冒険ではなかつた。
通信が多忙であると称して、ミツキイは滅多に小屋の外へ姿を現はさぬことに努めた。僕達は、なるべく日暮時に散歩した。事務所がランプを用ひてゐるだけで、酒盛りでもはじまらぬ限り何処の小屋でも蝋燭も惜んでゐる始末だから、訪ねて、声をかけても、言葉だけの応酬で姿などには気づかれもしなかつた。
「ミツキイ、お前の胸に――」
と僕は屡々云つた。「いさゝかでも陰鬱な怖《おそれ》や戦きが湧きあがるようだつたら、吾々は速刻山を下らうよ。」
「おれは――」
と彼女は答へるのが常だつた。「輝やかしい思ひ出として、これが残るためには、物語のやうな冒険に出逢ふことも厭はないさ。」
「この間の朝、お前が山鳥を打ち落した時、俺は、思はず、お前を抱きあげて接吻を与へた……」
「……おゝ、また、山鳥を打ち落して見たいものよ、お前の暖い接吻のために!」
「ところがね、それを、橇引きのミスター伝に発見されたことを、さつき知つたのさ。」
「……えツ!」
ミツキイは、思はず震へあがつて、慌てゝ窓にカーテンを降すと、僕の胸に飛びついた。
「許してお呉れ、結果を先に云はなかつたことを――」
と僕はあやまつた。
「驚ろかなくても好いんだ――あれはね、俺達が悦びの感情を示し合ふ時の、西洋風
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