者は壁に、ある者は卓子に、また或者は床に、耳をおしつけて息を殺した不思議なガール・シヤイ達である彼等は、内でばかりこのやうに悶々とするばかりで、見定めに出かける勇気のある者さへなかつた。――娘と出遇ふと誰も慌てゝ横を向いたまゝ物をも言はずに行き過ぎてしまふので私は、はじめ彼等は何か原始的の掟に従順で、異人族と言葉をかはすのを潔しとしないのだらう――と思つた程であつたのだ。私はそれとはおよそ反対の情火がそれ程まではげしく彼等の胸のうちに炎えてゐたかといふことは、さつき池のほとりで白ハチスの花束を持つて来た若者に会ふまで気づきもしなかつたのである。
 馬が店先にとまつたらしい。口笛の合図はこの馬車の手綱になれてゐる妻である――切りに口笛が鳴るのに一同の者は、身うごきもせずに突ツ伏してゐるばかりなので私が、扉をあけて見ると、馭者台にならんでゐるチル子と妻であつた。
「案外早かつたぢやないか――」
「だつておなかゞ空いてしまつたんですもの――うつかりしてゐたらあなたはお弁当の袋を背中につけたまゝ、来てしまふんですもの……」
「やあ……それは失敗つた。」
 なる程私は、未だにリユツク・サツクを背
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