た。「私は、この拳が割れる程門の扉を叩きました。と、頭の上の物見窓の口があいて、門番が顔を出して、金袋を持つて訪れたのかね、と申すので、否、それに就て相談があるのだ、金袋よりも確実に重味のある提言を引つさげて参り出たのであるから、兎も角、扉を開いて欲しい――と私達は、こゝぞと思つて、今の先生の熱弁よりも凄まじい剣幕で窓先に取り縋らうとした途端、門番は、大口をあけて嗤ひながら、お前達がめいめいに金袋をぶらさげて、こゝでぢやら/\と鳴らしたならば、そいつを合図にこの門を開け――といふ御主人の命令だよ、斯う云つて……」
「では僕は、先づ門番と対話を試みる。親戚会議の急用をひつさげて訪れたのだ、主人を出せ……」
「いえ/\――」
とサイパンが幽霊のやうに手を振つた。「ペンドラムの姿を発見したならば、一切の声がとどかぬ間にあらゆる窓々の扉を有無なく閉ぢて、耳には蝋をつめろ、彼奴は一種独特な笛吹きの術と弁舌をもつて人をたぶらかす手腕に長けてゐて、聴く者あらば必ずその心を囚へ去り……」
「バアバアル……一体これは何うしたら好からうか。」
私は、サイパンが音無の主人の口調を伝へてゐるのにも関はらず
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