芸術との境が滅茶苦茶になつて、近頃では、主に騎士道文学の享け売りを読物として、まんまと生徒から聴講料をせしめるソフイストとは成り変つてゐた。
おい、やかましいぞ、皆な少し静かにしろ――その頃の騎士の間では、それ程の意味を表すに、バアバアルと叫ぶのが流行した、源を正せば非ギリシア人といふ程の意味で、引いては一種のスウエヤアに等しく用ひられるに至つた。この言葉を浴せられた者は、手もなく一言の許に引きさがらざるを得ないといふ不文律が生ずるに至つたのである……。
私は、そんな智識を披瀝して、いつしか私達の間では、これが常用されるに至つてゐたのだ。滅多に放言しない代りに、何人に依らず、いかなる理由があらうとも、一度びこれを相手に叫ばれたならば、沈黙の浴霊にひれ伏さなければならなかつた。
私は、岬を一つ越へた音無村に父祖の縁家先にあたる業慾な酒造業者が住んでゐて、奴の為に私は様々な被害を蒙り、云はゞ奴の為に私はこのやうに浅間しい浪々の身分とは化したのである、それ故、盗めるものなら盗み出しても罪とは思はぬ、だが、こゝで一番私が智慧をふるつて、ソクラテス流の対話法に依る弁舌をもつて彼の酒造家を説
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