んて、それぢや反つて俺達の顔を潰すようなものぢやないか、はつはつは……うつふ、何といふ面白くもないナンセンス・ドラマであることよ。うつふ、うつふ……。
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羨君有酒能便酔《うらやむきみがさけありてよくすなはちゑふことを》
羨君無銭能不憂《うらやむきみがせんなくしてよくうれへざることを》
………………
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ドリアンを曳け、ドリアンを……」
と、大いに叱咤の腕を挙げるのであつたが、一同も亦黙々として一言の声を発する者もないのである。――見ると、彼等は五百羅漢のやうにたゝずむだまゝいつまでも洞ろに光つた眼《まなこ》をあちこちの空に挙げてゐるのみであつた。
間もなく私は、サイパンが私達を常連とする限り近郷近在のあらゆる酒問屋は、一切の御用を御免蒙ると由し合せて[#「由し合せて」はママ]ゐるといふ話を説明された。――この上私に、そんな歌をうたはれては、胸に涙さへ込みあげて来ると一同の者も思はずそろつて否々と首を振り、興醒めの風穴に吸ひ込まれて行つた。その私の詩《うた》を耳にすると、身の毛もよだつと云ふのであつた。この上、銭《せん》なくして能く不憂、
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