が凱旋のあかつきは
[#ここで字下げ終わり]
酒注台の片隅で古風なオルゴールが、勇ましい軍歌を歌ひ出してゐた。
これは私の寄贈に関はる自動オルガンで、銀泥に朱の馬鞭草《うまつゞら》と、金色の凌霄花《トランペツトフラワア》を鍍金した総鞣皮張りの小箱であるが、殊の他に大きな音響を発するので、メイ子は帰館の時も忘れて眠りほうけてしまう酔漢達の夢を呼び醒すためのコーリング・ベルの代用に使つてゐた。
強弱々、強弱々――と、いとも原始的な淋漓たる韻を踏んで鳴り出すバルヂンの音響に打たれると(歌詞は私より他に知る者とてもなかつたが――。)何んなに凄まじく眠り込んでゐる酔漢であつても、忽ち目を醒してしまふのが慣であつた。
あちらの樽、こちらの樽の蔭からむくむくと起き上る人達を見ると執れも私の戦友共が、蹣跚たる夢に飽きて、もう一度私達夫妻の合奏に伴れて花々しくカロルを踊つて、今宵の慕を閉ぢよう――と云ふのであつた。
それにしてもあれら[#「あれら」に傍点]の何処までが私の夢であつたか、或ひは夢と云ふのは私のごまかしであるか――それを判別すべく、焦れた酒の香に酔ひ痴れたまゝの私の頭では、少くとも
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