明日を待たねばならなかつた。あれら[#「あれら」に傍点]が悉く夢であつたならば、このいきさつを私は再び一篇の物語に綴り代へて、親愛なる諸君の前に披瀝したい望みを持つてゐる。
ともかく、これらの酒樽は尋常の手段に依つて獲得したのではない――といふことは事実である。
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………………
時は流れる
いまはのきはに吾等は微笑《わら》はう
Tattoo Tattoo !
[#ここで字下げ終わり]
「あれあれ、もうお前さんの用は済んでしまつたんだよ、皆さんは大変御気嫌好くお目ざめになつて、これから、もう一度仲善くカロルを踊らうといふところなんだよ、御苦労/\可愛いいあたしのバアバアル!」
メイ子は生物に物言ふように呟くと、オルゴールを抱きあげて頬を寄せながら休止のボタンを入れた。
不図私は、窓から岬の方角にあたる空を見上げると、昼間のやうに白く明るい光りの中に月とすれすれの高さで漁場の櫓が悄然と聳えてゐた。それが、知らぬ国の風景のやうにほのぼのと眺められた。
底本:「牧野信一全集第四巻」筑摩書房
2002(平成14)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「酒
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