ラ、クララ、クララツクス、クララツクス!」
といふ音響を発した。
「おゝ、あれはローマの Caligula 皇帝が、アポロの殿堂からツオイスの神像を持出さうとして、その手を像に触れた瞬間、神像が発した笑ひ声である。――はからずも音無の森でツオイス像の高笑の御声を聞かうとは何たる妙佳なことであらうよ。」
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(註。ツオイス像の姿に接して、その高笑ひの響きを聞きたる者は、幸福に恵まるゝといふ伝説あり、また一説にはツオイス像は芸術品の極致を象るものにして、何人と雖もこれを一瞥するならば胸に永遠に絶へざる歓喜の泉を蔵するに至るとあり。)
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「クララ、クララツクス、クララ……」
不思議な高笑ひの声が、高く低く梢から梢へ韻々とこだまして、月の暈を目がけて飛んで行つた。
「先生、何を斯んなところで有りがた涙を滾してゐるんです?」
七郎丸が私を促すのであつた。
「だつて、君には、あのツオイスの声が聞えぬのか……おゝ、次第に遠ざかるよ。」
「あれは音無家の者共が、吾々の策略に舌を巻いて逃げて行く悲鳴の声でありますよ。」
さう云はれ
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