――」
 と、非常に大きな声を張り挙げて、
「たつた今、ものゝ見事に持ち出して見るから見物するが好からうよ。」
 と叫ぶがいなや、腰にさした横笛を引き抜いて、
「Tattoo Tattoo Tattoo !」
 と最高音に吹き鳴した。
 呼応の声が塀外から、どつと巻き起つたと同時に、頭上の梢に滑車の軋みがきりきりきりきりとものゝ見事に Fiddle の伴奏のやうに響わたると、さながら大仏の頭のやうな酒樽が空中高く舞ひあがつた。
 樽は宙で一息衝くと、塀外から三叉の鉤をつけた長竿が現れ、おもむろに力をゆるめる綱といつしよに、見る間に、向方の月あかりの奈落に影を没した。それと一処に再び梢の上から二番目の綱が投げられると、時も移さず Tattoo の合図で二つ目の樽が宙に浮ぶ――それ曳け、曳け曳け!
 巨大な蜂の巣と見紛ふ梢に懸つた樽の有様を見上げて、私はしばし、この世にも奇怪な光景から魔呵なる恍惚の浴霊に浸ると、月を信仰する北方の蛮族の夢に駆られて、思はず、
「有りがたい/\!」
 と念じながら、その下にひれ伏した。
 酒樽が金色の暈にきらめきながら、怖ろしい白光を放つた。そして、
「クラ
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