ナイト》に変つたのを見て私は、
「空を飛んで、酒樽をうけとりに来たのだ。通達状は白鳩の矢にはさんで、屋上に届けておいた。」
さう云つて、胸先をさすつた手の先をこれみよがしに主の前に差し伸した。そして、ははははとわらつた。
「夜盗だ。夜蔭に乗じて垣を乗り越へて潜入した曲者と、私は取引きいたす手段《てだて》は弁へぬわい。」
「臆病窓から腕を伸させて、俺達の金袋を掠奪させた代償に酒樽をうけ取りに来たのだ。」
「門から訪れをうけた時に、埒はあけよう。」
「強力を用ひても担ぎ出す魂胆で、俺達は堂々と門を叩いたのだ。何を隠さう、そこに控へる三人の官吏は、お前方のお得意様の道案内だ。」
すると主は傍らの男衆に向つて、
「裏門に閂を容れて、番犬《ネロ》を放せ――」
と命じた。四人の男共が、とるものもとりあへず裏手の方へ走つた。そして、主は、さつきの私の嗤ひを真似るが如き陰気な高笑ひに皮肉味たつぷりと、
「左う聞いたからには、手前達は袋の鼠も同然だ、執達吏ときいて止胸を打たれたが――何の態か、振舞酒に現を抜してあの態たらく……」
と肚を抱へた。
執達吏共は、まことにその嘲笑に相当する大振子と変
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