たされたかと思ふと、やがて門番が顔だけを現して、
「御苦労様でした。お金はあれで充分だつた、サイパンの家賃、七郎丸の舟貸料、ペンドラムの蜜柑畑の租税の立替、それらのものゝ返済金として充分だつた。更に同額の金袋を持参したならば酒を売らう。」
「それ[#「それ」に傍点]とこれ[#「これ」に傍点]とはわけが違ふぞ、はなしは始めから……」
 一同は狼狽して窓口に飛びかゝつたが、忽ちぴたりと閉ぢてしまつて、空に一羽の鳶が大輪を描いて舞つてゐるだけであつた。――私の言葉に従つたばかりで、何も彼も水泡に帰してしまつたわけである。
「攻め入ろう。」
 私は狂気の叫びを挙げて、空の酒壜を卓子で打ち砕いた。
「手だては斯うだ。」
 私は次々の仲間に何事かを囁いた。
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フアラモンよ フアラモンよ
吾等は剣を執り 斧を揮つて戦はう
額から流れる汗が腕をつたふて滝となるまで
黄色い山麓に大鷲は悦びの声を放ち
鴉は死者の流す血の海を泳ぎ
海原は手負ひの傷
牧童達は永い間泣いてゐた
フアラモンよ フアラモンよ 吾等の王よ
吾等の父は戦場の露と消えた
荒鷲の大丈夫も泣きつゞけた
嘆くがまゝに嘆き
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