知らせがありさうなものなのに……」
「思はぬ光景を見せて、びつくりさせてやりたいと思つてるのよ、屹度!」
私は妻と腕を組んで、すいすいと月の光の中を泳いで行つた。
だが私は、サイパンの酒呑場に踏み込んで見ると、思ひも寄らぬ光景を発見した。薄暗いランプの下に、埃だけが積つてゐる円卓子を取り囲んだ連中は恰も鴉のやうな放神状態で、夫々の厭世的な姿を視守つてゐるだけであつた。そして私の入来に気づくと一勢に顔を反向けて、土鼠のやうに暗がりの方へ蠢いて行つた。
私は、言葉の通じぬ異国人に物を尋ねる程の困難を犯して、漸くその[#「その」に傍点]理由を問ひ訊して見ると、今日はいよ/\期が熟したのでサイパンを先頭にして数名の連中が金袋を携へて音無家を訪れたところが――。
彼等は勢ひきつて音無家の門に到着すると「ペンドラムの仲間が、この通りに莫大な金袋をひつさげて、酒を購ひに来たのである、いざ扉を開けたまへ。」
斯う叫んで一勢にぢやら/\と、神前の鈴を振るやうに金の音を響かせた。すると物見窓の口から鬼のやうな腕がぬつと現れて、
「数へて見ませう、どれ/\……」
と一つ一つ袋をうけとつて、大分待
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