|Hides in the forest, hunts the glen《林にかくれ谷間に棲めよ》,
|Plays on the margin of the rill《川のほとりにあそびては》,
|Peep down the fox's den《狐住む洞をものぞけいさほしく》 ......”
[#ここで横組み終わり]
[#ここで字下げ終わり]
「酒をうけとりに来た――Happy Pendulum brotherhood.」
轍に草を巻き、靴をサンダルに履き換へ、先頭の五騎は登山用のロープを肩に掛け、次の五騎は大小五個の滑車及び梃子、手押の二輪車を曳き出し、残りの者は馬の皮手袋をつけて、竹刀を用意した。
「僕達は、酒の買出しに遥々とやつて来た音無家のお得意様なんだよ。戦ひの気分は、兼ねて申し合せた通り、この丘の上で脱ぎ棄てゝ――さあ、月あかりの径を踏んで行かう。」
そして私達は五棟の白壁づくりの酒倉が立ち並んでゐる音無家の裏手へ回つた。――執達吏の兵田弥介をして、裏門のくゞり所を叩かしめた。
「ペンドラム家の依頼を享けて、貴家の財産しらべに参つた街の弁理士です。主人を呼び出さぬと、有無なく、この五つの酒倉に差押への赤札を貼るべき権利を持つてゐる者ですぞ。」
くゞり戸があいて弥介の姿が闇に吸はれた様子を見てとると私は、三番目の酒蔵の塀側に亭々と聳えてゐる樅の梢を指差して、
「ロープ」
と号令した。
綱は竜巻のいきほひで、空を切つて見あげる酒倉の屋根にさしかゝつた梢にからまつた。二条、三条……と次々に綱は枝に懸ると見ると、私達は飛鳥の早業で枝から枝へつたはつた。
私は、先端に鉄の大鉤のついた一本の綱を酒倉と酒倉の間の地に落し綱の中腹に大型の滑車をとりつけ、太い腕木のやうな枝に結びつけた。外側では五人の皮手袋が、綱の一端をつかんで、私達の合図を待つてゐるのであつた。
これ位ひの高さの木の上で行ふ離れ業は、八十八段もあるR漁場の魚見櫓での作業に慣れてゐる私達にとつては遊戯にも等しいものであつた。
私は額に手を翳して、木の間を洩れる月光のまぶしさをさへぎりながら、凝つと母家の様子を窺つてゐると、やがて二張りの提灯を先に立てゝ五六体の人影が、そろそろと酒倉の方へすゝんで来た。
収税吏にその身を窶した大学生の田野流吉が何やら切りと指をあちこちに差しながら提灯持ちに
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