氏のあの仕事に対して日増に熱烈な興味を増しつゝあるのであつた。その上私は、G氏も亦私にとつては芸術上の得難き友であるといふ思ひに打たれてゐるのであつた。
 そして私は、是非ともG氏をモデルにした小説を書きたいと憧れはじめてゐるのである。それには、何うしても更に、少くとも四五回は、白面で、G氏のスタデイオを訪れなければならない。私は、G氏をモデルにすることを、G氏の承諾を得た上で、彼に訊ねなければならない数々の疑問を持つてゐる。G氏の承諾を得なければ描くことの出来ぬ場面だからである。
 だがG氏は果して私の申出を諾《き》いて呉れるであらうか。何故なら私が彼に訊ねることは学術上のことは別として、余りにプライべイトな話に立ち至るであらうから。
「若し君が僕の申し出を諾いて呉れるならば、僕も亦――」とG氏は、若しや交換条件を持出しはしなからうか。それを思ふと私は深い嘆息を吐かずには居られぬのであるが、
「止むなくば――」とさへ思つてゐるのである。――空と共に酒の香り益々高き秋たけなはなる今日此頃私は、余裕さへあれば嘗てG氏に出遇つた酒場に赴いては、空しく酔ふて帰路を踏んでゐる。そして私は、自分
前へ 次へ
全9ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング