の、その姿の、フラ/\とよろめきながら首を振つたり、手をあげたりして歩く、スクリーンに映し出た時の、骨格の運動を想像すると、稍ともすれば酔ひを醒まされ勝ちになる。酔つてゐる間の自分の運動状態などは知る由もないが常々私は周囲の者から、それはたしかに異なものである――といふ嘲笑を買ふてゐるのだ。その度毎に私は、今後酔はぬことを誓ふのである。あゝ、酒は止むべきだ。
 だが私は一日も早くG氏に廻り遇はなければならない。
「デビルズ・デイクシヨナリイ」「ユニバーサル・マジシアンス・ブツク」「ヒストリイ・オヴ・デビルズ」
 この三冊の本は、あの時G氏が、両側が一杯書物で埋つてゐる廊下の書架から、「無選択で――」と云つて取り出して、私に呉れた本であるが、G氏に遇へる時まで酒を止めて、これでも読んでゐようかしら――などゝ思つてゐる。



底本:「牧野信一全集第四巻」筑摩書房
   2002(平成14)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「読売新聞」読売新聞社
   1930(昭和5)年11月13日〜15日
初出:「読売新聞」読売新聞社
   1930(昭和5)年11月13日〜15日
入力:宮元淳
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