見えた。青い瞳とローマ型の鼻を持ち、がつちりと結んだ唇の――横顔が、無言のまゝ画面を視詰めてゐた。
「余程僕の仕事に深い理解と同情を持つて呉れる友達にでなければ頼むわけには行かないのだが――」
 G氏は、この仕事に関する様々な抱負や経験や実験の説明をした後に、臆病な調子でそんなことを云つた。――「君も近いうちに、このモデルになつて呉れないか。僕は撮影技術のことばかりでなく、様々な骨格の運動状態を撮らなければならないのだ。例へば、貴婦人の動作、運動家の姿勢、重い荷物を担ぐ人、踊る人……と、それはもう数限りはない。――やがて僕は、この撮映機が僕の期するやうな完成に至つた時には、僕は白昼凡ゆる場所にロケーシヨンに出かけて、一切の生物の運動上の骨格状態を撮映しようといふ念願を持つてゐる。――だが今のところは、モデルに承諾を乞ふた上でなければ事が運べぬといふ不完全な機械だから――」
 私は、スクリーンの上で、しきりにスパルタ風の体操の模範運動を試みてゐる不気味な人体と、技士をつとめてゐる娘とを見くらべながら、
「研究台に昇つても関はないが、僕は何の特殊な運動術を持つてゐるわけでもないからね――」
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