いふものを観た。G氏の云ふところに依ると彼は十年も前からこの仕事を研究してゐるが、未完成のものばかりである、とのことだつた。
 その一つは「骸骨の運動」であつた。
「この被写体は僕の娘である、こんなことは云ふ必要もないのだが、君は小説家だから説明しよう。」
 彼は云つた。「妻は僕のこの研究に恥を感じて、先年帰国してしまつた。ローマ旧教の信者である彼女は、僕の仕事を罵らずには居られなかつた。然しさすがにヒツペウス族の血を引いてゐる彼女は、僕のこの仕事が或る完成を遂げたら再び相見るであらう――と云ひ残して行つたが。」
「で、このモデルの方は?」
「彼女は科学には興味は持たぬが、普通のモダン・ガールだから、こんなモデルになる位のことは、何とも思つてゐない。」
 そしてG氏は、扉をあけて、
「ミミー、ミミー!」
 と呼んだ。「技士になつて下さいな。パヽは、お客様に説明だけをしなければならないんだから――」
 娘は、無愛嬌な様子で入つて来た。そして直ぐに父と代つて映写機の傍らに立つて、撮影を続けた。娘の顔は、映写機から漏れる光りを浴びて、薄暗がりの中に、はつきりと浮んでゐた。――金髪が殆ど白色に
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